ちょっと気になる健康問題 ~第4回~

皮膚の常在菌


「健康なあなたでも皮膚にはたくさんの細菌が棲んでいる!」と聞いたら皆さんはびっくりされるかもしれません。腸内細菌ならよく聞くけれども、いつもきれいに洗っている皮膚に細菌がいるなんて、気持ち悪くていやだ、と思われるでしょう。でもこれは本当の話です。  常在菌という言葉を聞いたことがありますか。常在というからには、いつも人間の身体にいるということを意味します。当然のことですが、どの細菌でも自分が暮らしやすいところを求めて移動します。それがたまたま植物のまわりだったり、土の中だったり、動物の皮膚表面やおなかの中だったりします。同時に細菌同士も勢力争いをしつつ、さらに居心地の良いところを見つけ定住する、ということがくりひろげられます。そういう過程で人の皮膚や腸管の中に棲みつき、上手に共生関係を結んだ菌が、人の常在菌とよばれます。それらにとっては、人の身体は一定の良い温度環境、餌となるものの安定供給があるということで、棲みつくのに好条件をみたしているのです。皮膚にいる細菌ならば、こまめに手洗いをして、毎日風呂に入って石鹸やシャンプーできれいに洗えばいなくなるんじゃないか、と思いたくなります。確かに手洗い・洗顔後やふろ上がりには菌数はかなり減りますが、それでもしばらくすると手足だけでなく、顔やおなかの皮膚もすっかり菌だらけに戻ってしまいます。その数は皮膚全体で1兆個といわれています。かといって落胆することはありません。菌と聞くと人間に悪さを働くと考えてしまいがちですが、決して悪いやつばかりではないのです。それどころか、人が健全な生活を送るうえで何よりも心強い味方になってくれる菌もいます。

 

例えば、皮膚がしっとりつやつやしているためには、表皮ブドウ球菌 という常在菌がとても重要な働きをしています。この菌は文字通り人の皮膚に常在していて、顕微鏡で見るとブドウの房様であることからこのような名前が付けられています(画像参照)。この菌はとくに免疫力の低下した人以外では基本的に病原性がなく、我々の皮膚のあちこちでのんびり暮らしています。しかも、殊勝にもちゃんと「皮膚保護という家賃」を払ってくれているのですから、大変ありがたい存在です。表皮ブドウ球菌は皮脂や汗を栄養として取り入れ、不要な物を排泄しますが、この排泄物は弱酸性であり、皮脂の脂肪酸と共に働いて皮膚表面を弱酸性に保ちます。実は、このおかげで皮膚は守られ、潤いを維持できるのです。すなわち、表皮ブドウ球菌の産生物質が人の汗や皮脂と混ざって、それらの作用で皮膚はしっとりするというわけです。また、病原菌の多くはアルカリ性を好むので、弱酸性に保たれた皮膚に付着しても、そこで増殖したり皮膚内部に侵入することは容易にはできません。つまり、皮脂と表皮ブドウ球菌の産生物質は皮膚のバリアの役目も果たしているのです。

やっきになって体を洗いまくり、さらに抗菌パウダーの類をふりかけたりすると、むしろ皮膚はカサカサとなり、ひどいときはかゆみが出たりすることがあります。あるいは部分的に異常に脂っぽくなってきて、ぶつぶつができたり、ジクジクし始めたら、それは表皮ブドウ球菌とは違う種類の悪い菌が増殖していると考えられます。

 

表皮ブドウ球菌以外にも酸を排出する皮膚常在菌はいます。ニキビの元凶として嫌われることもあるアクネ菌も酸性物質を出すことで通常は皮膚を保護する働きをしています。また、カビなどの真菌類も多くの人の皮膚にいて、増殖すると水虫などの皮膚病に発展しますが、実はこれらも本来はおとなしい存在で、少々いる分にはなんら問題は起こしません。

 

このように、人間にとって有害な作用をおよぼす菌がいても、酸を出す 皮膚常在菌 がしっかり定住してその場での勢力を優位に保ち、皮膚が弱酸性に保たれている状態であれば、あまり心配はないというわけなのです。その状態は常在菌自体が健全な状況を保ち、適度に存在する状態であり、それが保たれていれば多少カビがいようと病原菌が付着しようと、そうそう肌が荒れたりジクジク膿んだりはしません。常在菌の存在状況は人によって様々であり、また気候によっても違ってきますが、いずれにしても皮膚のみならず腸内常在菌がうまく働いてくれれば、まさに共存共栄であり、健康維持に良い影響がもたらされるということです。

 

参考図書:「人体常在菌のはなし」(集英社新書) 青木 皐(のぼる)

 

院長 金 秀樹