2017年 新年のごあいさつ

明けましておめでとうございます。新年を迎え、謹んでご挨拶申し上げます。

 昨年は大きな災害や社会情勢の変化があり、落ち着かない世相でしたが、皆様のおかげであさひ病院、介護老人保健施設あさひ及び竹の塚あさひ医院は変わりなく運営できました。

 

あさひ病院においては、例年と同じく救急救命士の病院実習、中学生の職場体験や高校生のインターンシップ(疑似実習)などを受け入れ、一方では在日本コレアン医療系学生の老健あさひとあさひ病院見学に対応したりと、対外的業務を堅実にこなしました。また、初めて自衛消防訓練大会に参加(2名の職員)しました。1125日には東京都福祉保健局のあさひ病院立ち入り調査があり、いくつかの指摘ないしは指導を受けましたが、おおむね滞りなく進行することができました。診療面では、あさひ病院の救急車受け入れ応需率を上げるために努力した結果、2016年は80%程度を維持できました。いろいろ制約のある中で大変ですが、円滑な救急車受入れをこれからも推進していきたいと思います。

 

老健は4年目を迎え人事面で多くの変動があったり、入所者の特別養護施設への転所が増えたりと、とても多忙でしたが、地域社会の信頼を得て、しっかり定着しました。

同時に広報活動にも力を入れました。あさひ病院・老健とも紹介パンフレットを新たに作成し、受診者や利用者に最新の情報を提供し、施設利用が正確かつ簡便にできるよう案内しました。また、ホームページの内容もできるだけわかりやすくして、なおかつ一般閲覧者の興味を引くような記事も載せるようにしました。

 

個々人と地域社会とのつながりが薄れ、高齢者の孤独死が社会問題となっている昨今、地元ですぐ診てくれる「かかりつけ医」の存在意義はますます重要になっており、同時に、高齢者の尊厳を保ち、住み慣れた地域でいつまでも健康に過ごせる社会を実現するためには、救急医療をも包含した地域医療中核病院、及び介護・リハビリ施設の存在もまた必要不可欠です。これらは我々の医療の主体であることを肝に銘じて、これからも微力ながら救急・地域医療充実させ、高齢化社会えていけるよう努力をしていきたいと考えています

 

新たな一年が皆様にとってこれまで以上に幸多き年になることを心より祈願いたしまして年頭のご挨拶といたします。

 

医療法人社団 東京朝日会 あさひ病院
病院長 金秀樹

< あさひ病院 >

< 介護老人保健施設あさひ >

ちょっと気になる健康問題 ~第5回~

糖尿病の話 <その1>


紀元前エジプトの遺跡で発見された文書において、すでに「極度の多尿、口渇」など糖尿病(DM)を思わせる記載があると伝えられています。しかし、病因がわからないまま時代は流れ、膵臓がそれに関係することがわかったのはやっと17世紀になってからです。それでも有効な治療法の発見にはなかなか至らず、1910年代になって「全熱量の制限を行うべきだ」とする考え方すなわち「食事制限」が初めて提唱されました。さらに、今から100年足らず前の1921年ついにインスリンが発見され、その翌年には臨床応用されるようになりました。


その後インスリン製剤は遺伝子工学の進歩にともなって多くの改良がなされ、今日に至っています。また、1960年代に経口血糖降下薬が開発され、内服による血糖コントロールも臨床の場で日常的に行われるようになりました。その後2000年代に入って新たな作用機序を有する薬剤が次々に登場するようになり、今やこれらの薬剤をすべて合わせると8種類にもなります。インスリン注射等の注射製剤ともども患者の病態に合わせてうまく薬剤を選択するのには医療従事者にとって相当な知識と経験が要求されるようになりました。有効な治療法がなかった時代には昏睡や失明予防が重要課題でしたが、今日では糖尿病治療の目標は、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、健康な人と変わらない寿命を確保することであると提起されています。

 

 

日本では糖尿病患者がいまや500万人とも600万人ともいわれています。それ以外にも予備群といわれる人もいます。糖尿病の初期は自覚症状に乏しく、進行すると眼底の網膜症による失明、腎不全や心筋梗塞などの深刻な合併症を引き起こすおそれがあります。しかし、健康診断や特定健康診査で血糖値が高いことを指摘されても、何も症状がないことや多忙などを理由に医療機関を受診せず放置したり、自己判断で治療を中断したりすることが大きな医療問題となっています。言いかえれば、一見何事もない日常生活のなかで自覚のないまま病気が進行して、働き盛りの人々を重篤な病におとしいれる、これが糖尿病の極めて現代的な恐ろしさであり社会的な問題点なのです。

 

 

現在、日本における糖尿病の背景には、従来から指摘されていた「エネルギー過剰になりやすい生活習慣や高脂肪食・運動不足が招く肥満・内臓脂肪蓄積を原因とする病態」に加え、特に高齢者を中心としたサルコペニア(加齢に伴う筋力低下および筋肉量の減少)といった病態が関与するようになってきています。また、医療の進歩に伴う健康寿命の延伸による超高齢化社会においては、糖尿病の合併症も従来の細小血管合併症や動脈硬化性疾患に加えて、非アルコール性脂肪肝、認知症、骨粗鬆症、フレイル(Frail=加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態)などが注目され、それらに対する予防も重要視されるようになりました。

 

 

元気なのに糖尿病はなぜ治療介入が必要なのかを理解することが老若を問わず日常生活を健やかに過ごすためにいかに大切であるかを認識しなければなりません。糖尿病をよく知り理解すれば、それすなわち現代人にとって生活の良き指針となります。今後、この欄では折にふれて糖尿病についてお話していきたいと思います。

 

 

 

院長 金 秀樹

ちょっと気になる健康問題 ~第4回~

皮膚の常在菌


「健康なあなたでも皮膚にはたくさんの細菌が棲んでいる!」と聞いたら皆さんはびっくりされるかもしれません。腸内細菌ならよく聞くけれども、いつもきれいに洗っている皮膚に細菌がいるなんて、気持ち悪くていやだ、と思われるでしょう。でもこれは本当の話です。  常在菌という言葉を聞いたことがありますか。常在というからには、いつも人間の身体にいるということを意味します。当然のことですが、どの細菌でも自分が暮らしやすいところを求めて移動します。それがたまたま植物のまわりだったり、土の中だったり、動物の皮膚表面やおなかの中だったりします。同時に細菌同士も勢力争いをしつつ、さらに居心地の良いところを見つけ定住する、ということがくりひろげられます。そういう過程で人の皮膚や腸管の中に棲みつき、上手に共生関係を結んだ菌が、人の常在菌とよばれます。それらにとっては、人の身体は一定の良い温度環境、餌となるものの安定供給があるということで、棲みつくのに好条件をみたしているのです。皮膚にいる細菌ならば、こまめに手洗いをして、毎日風呂に入って石鹸やシャンプーできれいに洗えばいなくなるんじゃないか、と思いたくなります。確かに手洗い・洗顔後やふろ上がりには菌数はかなり減りますが、それでもしばらくすると手足だけでなく、顔やおなかの皮膚もすっかり菌だらけに戻ってしまいます。その数は皮膚全体で1兆個といわれています。かといって落胆することはありません。菌と聞くと人間に悪さを働くと考えてしまいがちですが、決して悪いやつばかりではないのです。それどころか、人が健全な生活を送るうえで何よりも心強い味方になってくれる菌もいます。

 

例えば、皮膚がしっとりつやつやしているためには、表皮ブドウ球菌 という常在菌がとても重要な働きをしています。この菌は文字通り人の皮膚に常在していて、顕微鏡で見るとブドウの房様であることからこのような名前が付けられています(画像参照)。この菌はとくに免疫力の低下した人以外では基本的に病原性がなく、我々の皮膚のあちこちでのんびり暮らしています。しかも、殊勝にもちゃんと「皮膚保護という家賃」を払ってくれているのですから、大変ありがたい存在です。表皮ブドウ球菌は皮脂や汗を栄養として取り入れ、不要な物を排泄しますが、この排泄物は弱酸性であり、皮脂の脂肪酸と共に働いて皮膚表面を弱酸性に保ちます。実は、このおかげで皮膚は守られ、潤いを維持できるのです。すなわち、表皮ブドウ球菌の産生物質が人の汗や皮脂と混ざって、それらの作用で皮膚はしっとりするというわけです。また、病原菌の多くはアルカリ性を好むので、弱酸性に保たれた皮膚に付着しても、そこで増殖したり皮膚内部に侵入することは容易にはできません。つまり、皮脂と表皮ブドウ球菌の産生物質は皮膚のバリアの役目も果たしているのです。

やっきになって体を洗いまくり、さらに抗菌パウダーの類をふりかけたりすると、むしろ皮膚はカサカサとなり、ひどいときはかゆみが出たりすることがあります。あるいは部分的に異常に脂っぽくなってきて、ぶつぶつができたり、ジクジクし始めたら、それは表皮ブドウ球菌とは違う種類の悪い菌が増殖していると考えられます。

 

表皮ブドウ球菌以外にも酸を排出する皮膚常在菌はいます。ニキビの元凶として嫌われることもあるアクネ菌も酸性物質を出すことで通常は皮膚を保護する働きをしています。また、カビなどの真菌類も多くの人の皮膚にいて、増殖すると水虫などの皮膚病に発展しますが、実はこれらも本来はおとなしい存在で、少々いる分にはなんら問題は起こしません。

 

このように、人間にとって有害な作用をおよぼす菌がいても、酸を出す 皮膚常在菌 がしっかり定住してその場での勢力を優位に保ち、皮膚が弱酸性に保たれている状態であれば、あまり心配はないというわけなのです。その状態は常在菌自体が健全な状況を保ち、適度に存在する状態であり、それが保たれていれば多少カビがいようと病原菌が付着しようと、そうそう肌が荒れたりジクジク膿んだりはしません。常在菌の存在状況は人によって様々であり、また気候によっても違ってきますが、いずれにしても皮膚のみならず腸内常在菌がうまく働いてくれれば、まさに共存共栄であり、健康維持に良い影響がもたらされるということです。

 

参考図書:「人体常在菌のはなし」(集英社新書) 青木 皐(のぼる)

 

院長 金 秀樹